スウェーデンのカロリンスカ研究所は、2024年のノーベル生理学・医学賞を米国のビクター・アンブロス博士とゲイリー・ラブカン博士に授与すると発表しました。
受賞理由は、「マイクロRNAの発見と転写後遺伝子制御における役割の解明」です。
簡潔に受賞理由をまとめます。
miRNA(マイクロRNA)とは?
DNAを鋳型にメッセンジャーRNA(mRNA)が転写され、mRNAを翻訳することでタンパク質が作られます。
miRNA(マイクロRNA)は、長さが約20~25塩基の小さな非コードRNA分子(タンパク質に翻訳されない)で、遺伝子発現の調節に重要な役割を果たします。miRNAは標的とするmRNAに結合し翻訳を抑制したり、mRNAの分解を促進することでタンパク質の合成量を調節します。
タンパク質の量を調節するmiRNAは、細胞が正常に働くための役割を果たすため、癌や心血管疾患、神経疾患などの多くの疾患に関わることが明らかにされています。
1993年 C. elegansにおけるlin-4の発見
miRNAに関する最初の発見は、線虫(C. elegans)という小さなモデル生物で行われました。
ビクター・アンブロスらが、lin-4と呼ばれる遺伝子が成長と発生を調節する小さなRNAを生成していることを発見しました。このlin-4が、翻訳抑制を通じて別の遺伝子(lin-14)のmRNAの発現を調節することが明らかになりました。lin-4が生成するRNAは、miRNAの一種であり、この発見がmiRNAの概念の始まりとなりました。
2000年:let-7の発見とmiRNA普遍性の発見
1990年代後半に同じくC. elegansで、let-7という小さなRNAが発見されました。
これも成長過程における遺伝子発現を調節する役割を持つものでした。
さらに2000年、アンブロスとゲイリー・ラブカンらの研究により、let-7は進化的に保存されていることが示され、線虫だけでなく、ショウジョウバエやヒトなど他の生物でも機能していることが明らかになりました。この発見により、miRNAが進化的に重要な分子であることが強く示唆されました。
miRNAの概念の確立
その後、同様の小さなRNAが他の生物でも発見されるようになり、これらが遺伝子の翻訳を抑制することで様々な細胞機能を調節していることが次第に明らかになりました。
これらのRNAは「マイクロRNA(miRNA)」と呼ばれるようになり、遺伝子発現調節における新しい重要な分子群として認識されるようになりました。
miRNAの疾患との関連の発見
2000年代以降、miRNAが発生過程だけでなく、がんや神経疾患、心血管疾患など様々な病気と関わっていることが次第に明らかになり、miRNAの生物学的役割が広く研究されるようになりました。
また、miRNAは治療や診断の新たなターゲットとして注目を集めるようになり、現在も重要な研究分野となっています。
このように、miRNAの発見は、遺伝子発現の調節機構に関する理解を大きく進め、現代生物学や医学分野で重要な研究対象となっています。
miRNAが受賞した意義
1993年に線虫で小さなRNAが発見された当初は、あまり注目されていませんでした。
しかし、ヒトを含む他の生物でもmiRNAが機能を持っていることが明らかにされ、多くの研究者の注目を集めるようになりました。
miRNAによる遺伝子制御は非常に複雑で、ひとつのmiRNAが多くの遺伝子を制御する一方、ひとつの遺伝子が多くのmiRNAによって制御されています。
AIや機械学習によって、miRNAによる遺伝子制御機構が網羅的に明らかにされ、miRNAが関わる病気の治療法の開発につながることが期待されます。
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